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【2025年新春トップインタビュー】井村屋㈱ 代表取締役社長 岩本 康氏2025.01.27(月)フードニュース

※本企画は「フードニュース」2025年新年特集号にも掲載しています

25年3月期上期、菓子事業2ケタ増収
特色磨いた「えいようかん」等、業績牽引

―― 井村屋グループの2024年3月期は売上高482億2200万円(対前期比107.9%)、営業利益25億3700万円(同127.3%)で着地しました。まずはその振り返りをお願いします。

岩本 「あずきバー」や「やわもちアイス」をはじめとした、冷菓の伸長が大きく貢献しました。「あずきバー」は猛暑による需要増のほか、原材料変更(※1)や価格改定、商品名の一部変更などのリニューアルがプラスに働き、利益改善に寄与しています。 

  菓子カテゴリーではようかんが好調でした。ようかん市場はかつて縮小傾向にありましたが、当社では「ギュッと押すだけパッケージ」を採用した「片手で食べられる小さなようかん」などのヒットにより、味や包装の開封性、開けやすさが評価され、価値が見直されるきっかけになったと考えています。

 また、備蓄保存に便利な賞味期限5年6カ月の「えいようかん」は、防災意識の高まりで需要が増し、ようかんの喫食機会創出につながりました。チョコレート味の「チョコえいようかん」も好評で、和と洋を融合した新感覚の味わいが若年層に受け入れられたことも大きな成果となりました。「チョコえいようかん」はカカオ原料の高騰・不足の影響もあり、供給面でご迷惑をおかけしましたので、原材料変更も検討し、安定供給に努めてまいります。

※1 原材料のコーンスターチをあずきパウダーに変更することで、使用原料を減らし、食品パッケージの表示内容を明確でわかりやすいものにするクリーンラベル化を実施


―― 2025年3月期上期は売上高が同106.1%、営業利益が同129.8%で、前期に続き損益面でのプラス成長が際立っています。
岩本 価格改定による利益率の改善と、生産性向上によるコスト削減が奏功しました。当社グループではかねてより、「Kの字経営」を実践しています。「K」の縦線は「人的資本の強化」、上向き線は「トップライン」、下向き線は「コストイノベーション」を表し、トップライン向上と同時に、それを下支えするために、コストダウンやロス・ミス・ムダの削減を徹底したことが、利益拡大につながっています。 

 豆腐製造の副産物「おから」や、あん製造で発生する「あずき皮」、カステラ製造時の「カステラ切れ端」をアップサイクルして、新しい価値を創造することも、コストダウンに寄与するとともに食品ロスの低減にもつながっています。


―― 上期の菓子関連の業績はいかがでしたか。
岩本 「えいようかん」が好調を維持し、菓子カテゴリーの売上高が同130%と大きく躍進する原動力になりました。 

 冷凍和菓子も伸長傾向で、2024年3月発売の「井村屋謹製たい焼き(つぶあん)」が計画通りの成長を見せています。こちらは風味豊かな北海道産小豆を使用し、生地は米粉と小麦粉をミックスしたカリッサクッとした食感で、当社の誇るつぶあんが尻尾の先までたっぷり詰まった自信作です。

 冷凍和菓子には競合他社の人気商品もございますが、あんを使った本格的な商品を手掛けたいという思いが強くあり、満を持しての発売となりました。「井村屋のあん」に対する期待感の表れか、お客様からの好意的な反応が多く見られています。

 昨年3月にはネオ和菓子ギフト「AN gelée fruits(アン ジュレ フリュイ)」を発売しました。お中元・お歳暮ギフトが縮小傾向にある中、家族や友人など近しい人に贈るパーソナルギフトが堅調なことを受け、従来の「水ようかん」にフルーツを掛け合わせたカジュアル商品となっています。

 8月には新食感の焼菓子「ミッチル ショコラ」の販売をスタートしています。こちらはカステラの生産設備・技術を活用したオリジナル商品で、密度の高い新感覚の「みっちり食感」と、チョコの濃厚な味わいを再現しています。これまでのカステラにはない新食感と、ワンハンドで喫食できる新形態で需要創出を目指しています。

 また、2024年秋冬の新商品では、「袋入 カスタードプリン」「袋入 チョコレートプリン」を発売しました。常温で1年間日持ちするプリンで、“昭和レトロ”ブームなどがきっかけで、昔ながらの喫茶店にあった少し固めの食感のプリンが人気となったことから、商品化に踏み切りました。チルド商品とは異なり、半生売場にあるプリンとして、その特色性から新たなターゲット層の獲得を図りたいと考えています。

 そのほか、「あずきバー」シリーズも依然として好調で、2024年3月に価格改定を行ったことから、その反応を注視しておりましたが、売上本数は上期として過去最高の約2憶6500万本を記録しました。

―― 2024年度は「肉まん・あんまん」が発売60周年を迎え、記念限定品や復刻品も話題になりました。
岩本 1964年に発売された「肉まん・あんまん」は、当社を代表する商品の一つです。当時の肉まんは辛子しょうゆをつけて食べるのが一般的でしたが、当社では最初から具材に味を付け、日本風の味で販売を開始しました。あんまんも当時は、こしあんに油を加えた中華あんが主流の中、つぶあんを採用しました。こうした経緯もあり、当社では発売当時から「中華まん」ではなく「肉まん・あんまん」と呼んでおり、和菓子屋として創業した井村屋だからこそ誕生した商品であることを、私自身も新入社員時代に先輩方からしっかりと受け継ぎました。

 現在の主流は点心・デリ事業で、CVS店頭の蒸し器で販売していますが、売場の変化や競合商品の台頭、人手不足などの問題もありますので、今後はオペレーションの簡素化のほか、新しい売場の創出を目指しています。「肉まん・あんまん」のもう1本の柱である家庭用商品でのシェア拡大のほか、例えば給食などの業務用、昔よく目にしたアミューズメント施設や動物園、出店拡大を続けるDgSへの展開なども視野に入れ、顧客開拓に向けてチャレンジを続けたいと考えています。

―― 2024年度は中期経営計画「Value Innovation 2026(新価値創造)」(※2)がスタートしました。岩本社長が特に重視する取り組みについて教えてください。
岩本 「特色性を発揮した新しい付加価値の追求」を重点強化しています。新中計ではSDGsのゴールでもある2030年へ向けて持続的な成長を目指し、常に新しい価値を提供していく所存です。他社のまねをするのではなく、オリジナリティを追求する特色経営に磨きをかけて、当社でなければ実施できない独自性のある事業や取り組みを、より鮮明化していきます。

 そのほか、「グローバル成長戦略の推進」として、グループ全体のシナジーを発揮し、海外での市場拡大や輸出強化を図ります。当社の「カステラ」は海外ではコストコを軸に販売しており、米国での展開を強化しているほか、昨年はカナダでの取扱いをスタートしました。カナダでは食品安全規制に基づき、強化小麦粉の使用が求められるため、米粉を使った「カステラ」を販売しています。もっちりとした新食感も特長で、新たな需要創出や他国への展開も期待しています。

―― 最後に、和菓子市場を牽引する貴社の2025年の成長戦略をお聞かせください。
岩本 原材料費やエネルギーコスト等の高騰で、価格改定を余儀なくされている現在、消費者の中には“値上げ疲れ”も見られます。お客様の目は以前にも増して厳しくなっていますので、商品の特色に磨きをかけることが重要です。

 当社では商品の質を高める大切さを、“ポリッシュアップ”という言葉を用いて伝えています。そこには商品価値をピカピカに磨き上げない限り、お客様には認めてもらえないという決意が込められています。

 人財育成も不可欠で、女性活躍の推進や多様性の尊重、働きがいを高めて、一人ひとりが自己成長を図る企業風土を醸成することが大切であり、和菓子の裾野拡大へ向けて全社一丸となって取り組みたいと思います。

※2 2024年度から2026年度までの新中期経営計画。①人的資本の価値を高める企業風土の変革、②特色性を発揮した新しい付加価値の追求、③グローバル成長戦略の推進、④高い利益体質と強固な財務基盤の構築、⑤サステナブルな取り組み強化、以上の5つを基本方針としている

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