【2025年新春トップインタビュー】江崎グリコ㈱ 代表取締役会長 江崎勝久氏2025.01.27(月)フードニュース
※本企画は「フードニュース」2025年新年特集号にも掲載しています
健康・食品事業の意欲的施策で成長加速
「おいしさと健康」の新しい価値創出を

―― まずは2024年の振り返りをお願いします。
江崎 国内外の情勢が混迷を深めるなか、国内経済においては、景気は緩やかな回復基調で推移しましたが、物価上昇と賃上げの動向、個人消費の影響など、先行きを引き続き注視していく必要があります。
当社グループは、存在意義(パーパス)である「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に向け、「おいしさと健康」の価値を創出した商品を通じて、生活者に習慣的に喫食いただけるような日常必需品へと進化することで、持続的な成長を目指しております。
―― 貴社の2024年12月期の動向はいかがでしょうか。
江崎 昨年は当社グループの基幹システムの不具合・故障が発生し、冷蔵品の出荷業務に支障をきたし、出荷停止のやむなきにいたりました。お客様、お取引先様、関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしました。誠に申し訳ございません。
今期第3四半期までの実績は、売上高は2411億7000万円(対前年同期比97.8%)、営業利益は126億7000万円(同79.6%)となっております。海外事業、栄養菓子事業、食品原料事業等で前年を上回ったものの、前述の当社・基幹システムのシステム障害による冷蔵品の出荷停止の影響で、主に乳業事業で大きく前年を下回りました。
冷蔵品につきましては、6月より安定供給を第一に、一部商品から順次出荷を再開し、11月にかけて全品出荷に復帰することができました。しかしながら受注数が4月以前に戻るには時間を要する見込みで、今後、お客様やお取引先様の信頼回復に努めるとともに、高い健康価値を有する「アーモンド効果」や「Bifixヨーグルト」の習慣化を訴求しながら、安定供給と売上回復に注力してまいります。
―― 一方で、菓子・食品などの常温商品、アイスなどの冷凍商品は堅調に推移したようですね。
江崎 菓子・食品についてはほぼ前年並み、アイスについても計画通りの進捗となっています。
ただ、当社の主力ブランドである「ポッキー」も売上の数字は上がっているものの、国内・海外で掲げる目標に対しては一歩ずつ前進はしていますが、まだまだ満足できるものではありません。
「ポッキー」のように高い知名度があっても、今年実施した「ポッキー音楽祭」など、様々なプロモーションにより、購入頻度を上げる取り組みを継続する必要があると考えています。
海外事業展開、力強く
―― 海外事業も売上を伸ばしていますね。
江崎 海外事業の売上高は588億7100万円(2024年第3四半期、対前年同期比113.7%)、営業利益は66億6800万円(同190.2%)で推移しています。
重点地域ごとに見ていくと、中国ではコロナ禍後の成長環境が整う中で伸長しましたが、今後は地域密着型のチャネル作りがポイントとなってくるでしょう。ASEANでは人口に対する「ポッキー」や「アーモンド効果」など、当社商品の購入比率の向上に取り組み、アメリカではASEANでの生産品の輸入・販売がメインのため、為替、輸送費、価格等での課題の対応を進めています。 このように、海外事業全体としては数字的には伸長しているものの、内容的には課題が多いのが現状です。方向性は堅持していきますが、各国の状況により、臨機応変の対応が求められています。
―― いわゆる“カカオショック”の影響はいかがでしたか。
江崎 2023年から2024年にかけては、カカオ原料を始めとする原材料価格の上昇により、価格改定を実施せざるを得ませんでした。これは消費の拡大においては、一時的なネガティブ要因となりますが、当社では価値向上を伴った値上げにより、当社商品の適正価格化に取り組んでまいりました。
カカオ原料の安定的調達については、ガーナなどのアフリカの産地だけでなく、品質の向上が著しい中南米諸国での調達も視力に入れ、産地の情報収集に注力していきます。チョコレート商品の差別化を図る意味でも、高品質の産地選定や加工技術の向上に取り組んでまいります。
パーパス実現に向け、施策充実
―― 2024年が最終年度となる中期経営計画(2022年~2024年)の振り返りと、次期中計の方向性をお聞かせください。
江崎 当社グループでは、バーバスである「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に向けて価値創造を強化し、中期経営計画に掲げる「おいしさと健康価値の提供」に注力してきました。
健康・食品事業の成長を加速するため、冷凍ヘルシーミールの定期宅配サービス「GREEN SPOON(グリーンスプーン)」を企画・製造・販売する㈱Greenspoonの全株式を2024年6月に取得し、完全子会社化しました。「日常的に喫食する主菜・副菜」の分野で「おいしさと健康」の新たな価値を創出してまいります。
また、「SUNAO」ブランドは、良質な素材を厳選し、独自製法を用いてアイスや冷凍生パスタを発売しました。「アーモンド効果」は、海外展開を加速し、タイをはじめとし、マレーシアやシンガポールなどASEAN市場への商品投入を進めたほか、中国市場でも鋭意取り組んでおります。
こうした パーパスの実現に向けた施策は次期中計でも継続していきますが、新しい取り組みとしてはデジタル分野の強化、AI活用の推進が挙げられます。10月には「AI推進室」を新設し、取り組みを加速してまいります。
―― パーパスの実現に向けては、ビフィズス菌と短鎖脂肪酸の研究と啓発活動にも取り組んでいますね。
江崎 当社では人々の健康寿命を延伸することをひとつの使命として考え、「BifiXヨーグルト」の健康価値を高める研究活動を進めています。健康寿命の延伸のため、ビフィズス菌などの腸内細菌が体内で作り出す「短鎖脂肪酸」に着眼した研究を加速しています。当社独自のビフィズス菌BifiXが作る短鎖脂肪酸の可能性を模索するとともに、「タンサ脂肪酸プロジェクト」として啓発活動を積極的に進めてまいります。
―― 相次ぐ値上げを背景に、消費の2極化が進んでいますが、こうした菓子業界の現状に対し、貴社はどのような施策で臨まれますか。
江崎 商品によっては値引きなどの価格対応が必要な場合もありますが、当社としては価格競争よりも消費者に価値のあるものを適切な価格でお届けすることを重視し、あくまでも商品価値を上げる作業に注力していきます
当社は創業以来一世紀にわたり、独創的な商品づくりと市場の開拓に取り組んでまいりましたが、これからも、顧客視点で「おいしさと健康」の新たな価値を創出し、社会に役立つ存在であり続けるため、グループが一丸となり積極果敢に行動を起こしていく所存です。