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ISMケルン国際菓子専門見本市2025 現地取材レポート2025.05.27(火)フードニュース

※本記事は「フードニュース5月号」の現地取材レポートを抜粋したものです

(写真左)サステナビリティ、健康志向に加え、伝統菓子も注目を集めた「新製品ショーケース 」(写真右)会場のケルンメッセ

 世界の最新菓子トレンドが集結した「ISM ケルン 国際菓子専門見本市2025(ISM2025)」(主催・KoelnmesseGmbH/ケルンメッセ社)、2月2日~2月5日)。本レポートでは、展示会全体の潮流、「新製品ショーケース」の出展傾向とアワード受賞製品の特徴を紹介する。

【展示会概要】さらにスケールアップして内容充実。菓子が人を幸せにする、希望の未来図示す

「ISM2025」の概要

「ISM2025」の出展社は「マース」、 「モンデリーズ」、「フェレロ」、「ネスレ」といった、グローバルメガ企業が少ないのが特徴だ。代わって「ロアカー」(イタリア・ウエハース・チョコレート)、「カッチェス」(ドイツ、グミ・リコリス)、「アイアンマックス・ニュートリション」(ドイツ、プロテイン製品)、「カンブリー」(スイス、ビスケット)、「ケルヴァン・ギダ」(トルコ、グミ(BEBETO」)、「ジェリーベリー」(アメリカ、ジェリービーンズ)など、主力製品に特化したメーカーが存在感を放っている。加えて、野心的な新製品を携えたスタートアップ企業、中小・新興企業、輸出商社が世界各国から集結し、菓子市場の未来を拓く活気に満ちていた。
 サステナビリティ、透明性、健康志向、機能性、そして香りや食感の新しい組み合わせといった現在の主要トレンドに加え、伝統的な菓子も引き続き注目の的となっていた。加えて、「スナック・オン・ザ・ゴー(Snacks on the go)」というトレンドも多くの新製品に反映されており、従来の食事が手軽な間食(スナッキング)に置き換わる傾向が強まっている。
 また、イオン(日本)、コストコ、ウォルマート(アメリカ)、アルバート・ハイン(オランダ)、コルルイト・グループ(ベルギー)などの流通企業のバイヤーも多数来場し、対面での商談が活発に展開された模様だ。

「ISM2025」は原材料、製造・包装機械、品質管理、冷却・冷凍技術、物流などを展示する「ProSweets Cologne」 (国際菓子産業見本市)との併催となっている。完成品(ISM)と製造・技術(ProSweets)を同時に展示することで、業界内の川上から川下までをつなぐ、包括的なトレンドを把握できると好評を得ている。両展の一部として展開される「ISM Ingredients」では、菓子の「原材料」にフォーカス。乳製品・グルテンフリー、冷蔵不要の「ココナッツチョコレート」(タイ)、天然ガム原料の「キオス島産 マスティックガム」(ギリシア)、北極圏などで採取される希少なベリー「クラウドベリー」(スウェーデン)など、製品の差別化や、健康志向・サステナビリティ・機能性といったトレンド対応を支える革新的原料を紹介し、多くの来場者が足を止めていた。

 世界各国のメーカー65社が出展した118点の新製品が、「新製品ショーケース(NEW PRODUCT SHOWCASE)」で一堂に会し、最新のトレンドを取り入れた華やかなラインアップで競い合った。
 そのトップ3に選ばれた製品(下記参照)の特徴から判断すると、①サステナビリティ ②健康志向 ③新しい味覚体験 を突き詰めた製品が、今後の市場をリードしていくのではないか。ここ数年、この傾向に大きな変化は見られないが、今年はこうした理念を追求しながらも、菓子の本来価値である“おいしさ”と“食べる楽しさ”も体現し、進化を遂げた製品の台頭が目立った。
 また、「新製品ショーケース」のエントリー製品から、消費者によるInstagramの投票で選ばれる「ISMコンシューマー・アワード」は、「Treets Vegan Crunchy Corn」(Piasten/ドイツ)に贈られた。同製品はローストコーンを、「Planet A Foods(ドイツ)」が開発したカカオフリーのチョコレート代替品「ChoViva(※)」でコーティングした、100%植物由来のスナックで、チョコレート代替品の認知・支持がヨーロッパの消費者の間で拡大していることを裏づけた。
 日本からは「HI-CHEW Blue Raspberry(ハイチュウ ブルーラズベリー」、「HI-CHEW Acai(同 アサイー)」(森永製菓)、「MOCHIKON(モチコン)」「NATTO CHOCOLATE(納豆チョコレート)」(前田商店、製造はマルキン食品)が出展。出展社の少なさに寂しさを覚えつつも、上記製品の注目度の高さから、来年以降の受賞に期待したいところだ。

※:昨年の「新製品ショーケース・トレンド第1位」を獲得した、ヒマワリの種を主原料にしたヴィーガン対応のチョコレート代替品。環境負荷の低減にも寄与する

新製品ショーケース イノベーショントップ3

◇TOP1(金賞)

◆強烈な酸っぱさ体験
 「ISM2025」で最優秀新製品賞(New Products Award)を受賞したのは、なんと“紙”のようなキャンディだった。オランダの老舗メーカー「Primus Wafer Paper」社が手がける、ジャガイモ由来の極薄キャンディ「Yummy Super Sour Candy Peper」は、口の中でふわりと溶ける不思議な食感と、アップル、レモンの強烈なサワーフレーバー体験を提供し、子ども向けの菓子としての“食べる楽しさ”を再定義した。

 同社はこれまでB to Bでの展開が中心だったが、同商品の開発を機にB to C市場への進出を開始。展示会初日に名刺がすべてなくなるほどの反響を受け、50カ国以上に及ぶ“エディブルペーパー”の輸出実績を背景に、同商品の生産体制の強化を急いでいる。今後は菓子の個包装利用など、100%生分解性素材としての応用も視野に入れ、提案を進めていくという。

◆同商品の受賞意義と日本での展開
「グミやチョコレートが中心だった菓子展示会で、“紙のキャンディ”が1位に選ばれたことは、業界にとっても大きな意味がある」。そう語る担当者の声には、100年の伝統から“子どもが喜ぶ食体験の創造”を生み出した自負がにじむ。
 日本人が好む味かどうかは、評価が分かれるところだが、刺激が強く、今まで知らなかった味わいを求めるZ世代以降の日本人にとっては、違和感なく受け入れられる可能性も大きい。そして何より、子ども向け菓子での新たな展開が期待される。

◇TOP2(銀賞)

◆かつてないフルーティな味わいを実現
 “おいしさ”と“サステナビリティ”を両立させたベルギー発の高級チョコレート「Pulp’n Choc Fruity Mix」は、カカオ豆を包み込んでいる「果肉=カカオパルプ」を余すことなく活用した、アップサイクル製品。
 通常、チョコレートの製造では果肉部分は廃棄されることが多い。しかし同製品では、カカオパルプをピューレ状に加工し、チョコレートのセンター部分として使用。オレンジ、ストロベリー、レモンなどの天然果実フレーバーと組み合わせることで、ミルクチョコとの絶妙なバランスを醸し出している。
 製造を手がけるのは1940年代創業の家族経営企業「Vandenbulcke」社で、ショコラティエの技術と革新的なアイデアを受け継いできた。「いいアイデアは、いいチームと家族の連携から生まれる」と語る担当者は、これまでに5年間で3度の受賞歴を持つ。こうした同一ブランド、同一メーカーの複数回受賞には疑問を呈する向きもある。しかしながら、高級ベルギーチョコレートのブランドが、アップサイクル商品の開発・改良を、一過性ではなく継続している姿勢が評価されたともいえる。イノベーションは長期的に追求してこそ実を結ぶ。

◇TOP3(銅賞)

パッケージの両端の耳の部分を開くと上部にマチができる。マチの部分を上下に開くと、自立してシェアしやすいパッケージに

◆シェアしやすいパッケージにも注目
 イスラエルの家族経営ブランド「Barth」が展開する植物由来スナック「wO’s」が、TOP3に選ばれた。創業は1936年。第2次世界大戦前にドイツからイスラエルに移住した現CEOの曾祖母が、家庭のキッチンで始めたチョコレート作りからスタートした同社は、家族4代、90年の時を経て、ドイツの地で栄冠を手にした。
 受賞製品「wO’s」は薄くて軽いクラッカータイプのスナックで、ひよこ豆(Chickpea)、赤レンズ豆(Red Lentil)、グリーンピース(Green Peas)を原料とした3種類の商品展開となっている。植物性たんぱく質を豊富に含みながら、味わいは非常にナチュラル。ディップとの相性も良く、健康志向の消費者に向けた商品として高い評価を受けている。
 今回、初めて展示会で披露された同製品のパッケージは、袋の底部だけでなく、上部にもマチがあり、開けやすく、複数人でシェアしやすいデザインとなっている。

「スタートアップ」「スケールアップ」と銘打った出展ゾーンでは、次世代を担うイノベーション製品を求めるバイヤーと、グローバルレベルでの販路拡大を夢見て、自社製品を情熱的にアピールするプロダクターの間で、創造的、かつシビアなやりとりが繰り広げられていた。
 フルーズドライはキャンディのみならずスナックやチョコレート、キャラメルなどにも波及し、低温製法(ローストなし)のチョコレート、蜂が運ぶ「花粉荷」を原料にした高栄養のチョコレート菓子、各種フィリング入りのもち菓子、自然由来のカフェインを含んだエネルギー補給グミ、などなど、発想と技術を深化させたイノベーション製品が、自分たちの時代が到来するのを虎視眈々と狙っていた。

※本誌5月号では同現地取材レポートとして、注目製品・展示ブースの取材や、トレンドを深堀りした記事、イノーバ社によるトップ10トレンドセミナーの様子などを掲載しております。ぜひご一読ください。

#ISM #グローバルトレンド #菓子トレンド

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