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【トップインタビュー】三幸製菓㈱ 代表取締役社長 牛膓栄一 氏2026.04.27(月)フードニュース

※本企画は「フードニュース2026年新年号」にも掲載しています。

1960年11月11日生まれ、神奈川県横浜市出身。明治大学政治経済学部卒業後、1983年に㈱ロッテ入社。2008年執行役員営業統括部長、2016年ロッテ商事㈱代表取締役専務を経て、2018年㈱ロッテ代表取締役社長執行役員を務める。2024年特別常任顧問。2025年7月より三幸製菓㈱取締役、同年10月に代表取締役社長に就任する。趣味は旅行。座右の銘は「一期一会」。好きな菓子は「雪の宿」、「わが家のテッパン」。

―― 昨年10月に社長に就任にされました。経緯と新天地での想いをお聞かせください。

牛膓 私は長らく菓子業界に携わっており、この業界には強い思い入れがあります。前社で社長執行役員の任期を終えた後、1年間は顧問として関わりましたが、改めて現場で仕事をしたいという想いが強くありました。そうした中でご縁があり、今回の話をありがたくお引き受けしました。同業からの移籍に迷いはありましたが、「自分のやりたいことに向き合うべきだ」と考え、決断しました。

 現在は“新入社員”のような気持ちです。これまでの経験に捉われず、ゼロベースで三幸製菓を見つめ直し、フラットな視点で関わっていきたいと考えています。

―― 着任後、まず取り組まれたこと、社内の印象や課題についても教えてください。

牛膓 最優先に据えたのは、安全・安心の土台を継続し、さらに深化させていくことです。4年前の事故を経て、前任の山下社長をはじめとした経営陣と現場が立て直しを進めてきたことで、現在は実績面でも回復してきています。

 この取り組みを一過性に終わらせず、文化として根付かせること。安全・安心は責務であり、最優先で取り組み続けるべきテーマです。

 そのうえで着手しているのが、成長に向けた組織づくりです。守りの体制を維持しながら、自社の強みと価値を見直し、それをどう伸ばすかを考えています。ガバナンスやリスク管理の基盤を整えつつ、成長に向けた体制を構築していくことが私の使命です。

 実際に組織に入ると、30〜40代を中心とした若い人材が主体的に動いており、その前向きな推進力に驚かされます。一方で、外部との接点が限られ、従来の枠にとどまる場面も見受けられます。今後は外部の知見も取り入れながら、挑戦の幅を広げていく必要があると考えています。

―― 渋谷に東京オフィスを開設されるとのことですが、その狙いをお聞かせください。

牛膓 狙いの一つは、生活者理解の深化にあります。本社のある新潟と東京では、生活環境や価値観が大きく異なります。そのリアルな感覚を捉えなければ、ニーズに合った商品は生まれません。メーカーは商品を生み出してこそ価値がある。そのための拠点と位置づけています。

 もう一つは採用と発信の強化です。国内外への展開を見据える中で、都市部の拠点は不可欠です。マーケティングや人事などの機能を東京にも配置し、営業拡大や採用強化につなげていく。将来的には第二本社のような役割も視野に入れています。

米菓の価値を高める段階へ

―― 他カテゴリーを見てこられた立場から、米菓市場はどう映っていますか。

牛膓 米菓は菓子業界にとって「なくてはならない」市場です。売上の大きな落ち込みが少なく、消費者の暮らしに根付いた安定したカテゴリーだと感じています。売場では目立つ存在ではありませんが、指名買いされる定番として確かな存在感を発揮しています。

 一方で、価格のあり方には課題があるとみています。これだけ手間と時間をかけた商品がこの価格なのか、というのが率直な印象でした。これからは価格競争やシェアの奪い合いではなく、ブランド価値を高めながら、カテゴリー全体の価値を引き上げていくべき段階にあるのではないでしょうか。

―― 三幸製菓ならではの強みについてはどのように見ていますか。

牛膓 「雪の宿」「チーズアーモンド」「丸大豆せんべい」「ぱりんこ」など、長く支持されてきた主力ブランドを持つことは大きな財産です。その根底にあるのは味付け技術や食感づくりにあり、それが当社の強みとなっています。

 課題はその価値を次の世代につなぐことにあります。若年層の多くは当社商品のおいしさを知っていても、自分では購入していないのが現状です。既存ブランドの見せ方や形態の工夫に加え、新たな商品開発にも取り組み、需要創出につなげていかなければなりません。

―― グミやラムネなど新カテゴリーへの挑戦も進められています。

牛膓 米粉を使った新感覚グミ「もちきゅあ」は、コンセプトは評価されていますが、まだ完成形ではありません。“もちもち食感”の追求に向け、自社製造への切り替えも視野に再構築を進めています。

 エナジーラムネ「UPROCK(アップロック)」も、ターゲットや喫食シーンの明確化が課題です。受験や運動、仕事など、どの場面で価値を発揮するのかを定めたうえで、よりエッジの効いた商品へと磨き上げていく必要があります。後発である以上、ニッチでも尖った価値を提示することが重要で、新たな需要を切り拓いていきます。

―― 原材料費や物流費の高騰に対して、どのように対応されていますか。

牛膓 単なる値上げには限界がきています。生活者にとってお菓子の優先順位は決して高くなく、作り手の都合で値頃感を外すことはできないと考えています。

 そのため付加価値を高めると同時に、足元の見直しとして、「コストコントロールプロジェクト」を推進しています。品質を維持しながら原価低減を図ることを目的に、部門横断での改善を進めています。縦割りの組織に横串を通し、製造・営業・マーケティングが連携して無駄を見直す。商品点数や季節商品のあり方についても、ゼロベースで再検討しています。

 こうした取り組みは利益改善だけでなく、組織全体の意識変革にもつながっており、物流の最適化も含め、内部改善と外部連携の両面からコスト構造の強化を図っています。

「雪の宿」50周年、新たな一手

―― 2026年9月期の業績と今後の見通しについて教えてください。

牛膓 2025年10月から2026年2月までの売上高は、予算比100.6%と計画通りで、利益についても堅調に推移しています。

 ただ、まだ十分ではなく、バックキャストの考え方で施策を進めています。夏場対策も前倒しで準備し、若手中心で長期ビジョンを描く「未来プロジェクト」にも着手するなど、中長期の成長に向けた基盤づくりを行っています。

 2027年は「雪の宿」が50周年を迎えます。ブランド価値の向上のための施策も検討しており、アンテナショップも開設する予定です。土産需要の取り込みに加え、ブランド発信やテストマーケティングの拠点として活用し、「ホワミル」といった公式キャラクターの展開も含め、新たな可能性を広げていきたいですね。

ワオ!を育む企業文化醸成へ

―― 最後に、今後の成長戦略についてお聞かせください。

牛膓 数値目標以上に重視しているのが企業文化の醸成です。安全・安心を基盤としつつ、「三幸製菓は面白い」と思われる企業へと進化していきたい。「Make Wow Moments. つくろう、ワォ!と楽しくなる瞬間。」というコーポレートブランドスローガンの通り、社員一人一人がワクワクして働ける環境づくりが重要です。企業の力は社員のマインドによって決まり、人財は最大の資産だからです。

 私の役割は、その力を引き出すことにあります。朝礼や月初に発信するメッセージ、「社長ブログ」などを通じて考えを共有するとともに、今後は全社員との1on1ミーティングによって、現場の声を直接受け止めていきます。評価のためではなく、会社のあり方を共有し、よりよい環境を整えるための対話にしたいと思います。

 私は社員に対して日頃から、自信を持って仕事に臨んでほしいと伝えています。当社は業界を代表するメーカーの一つであり、その価値を堂々と発信できる存在です。一人一人が自信を持って主体的に動くことで、会社全体の活気にもつながっていくことでしょう。

 商品戦略としては“ニッチ”と“エッジ”を意識し、既存の延長ではない新しい価値の創出に挑戦していく。その積み重ねによって、「三幸製菓は新しいものをつくる会社だ」と評価されるオンリーワン企業を目指していきます。

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