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【新素材特集・コオロギタンパク】企業インタビュー・㈱グリラス 代表取締役社長 渡邉崇⼈ 氏2022.08.25(木)フードニュース

※本企画は「フードニュース8月号」でも掲載しています。

食用コオロギ浸透・定着へ、喫食機会創出

―― 徳島大学発のフードテックベンチャー企業である御社の概要と、直近の動向をお教えください。
渡邉 当社は、2019年に設立し、食用コオロギに関連する品種改良・生産・原料加工・商品開発・販売を一貫して行っています。
 コオロギ原料の「グリラスパウダー」などを発売しているほか、昨年は自社ブランド「C. TRIA(シートリア)」を立ち上げ、今年6月には㈱ファミリーマートが展開するストアブランド「ファミマ!!」において、「C. TRIA クッキー(大判)」、「C. TRIA プロテインバー」の2商品を発売しました。取扱店舗数は当初は13店舗でしたが、売れ行きも好調で40店舗以上に拡大しています。
 原料生産については、徳島県美馬市の廃校を利用した美馬ファームの整備により、現在は年間10トン程度の生産能力を有しています。

「C. TRIA クッキー(大判)」
  「C. TRIA プロテインバー」


―― 近年、国内外で昆虫食の注目度が高まっていますね。
渡邉 2025年~30年にもタンパク質の需要と供給が逆転する「タンパク質危機」が発生すると考えられています。この課題解決に向け、日本だけでなく地球全体のことを考え、10年後20年後に何千トン、何万トンという規模で、飢餓地域にコオロギをベースとしたタンパク質を供給する体制を構築することが、大きな目標の一つとしてあります。
 現在は将来もビジネスとしてしっかりと成り立つよう、人員増強を含め、組織体制づくりを進めているところです。

―― フードロスの観点から、食品残渣をエサとして活用することも注目されています。
渡邉 当社では小麦粉ふすまをベースに、その他の食品ロスも活用した食品残渣100%のエサを開発しました。エサによって、牛・豚などの畜産物と同様に、食味や品質が大きく変わるため、どのような食品残渣を用いるかは、とても重要なポイントとなっております。

―― 菓子製品の食品残渣の活用についてはいかがでしょうか。
渡邉 エサに活用する場合、年間を通して一定量排出されるといったことが求められるため、その点で菓子類の食品残渣の活用は十分に考えられます。
 しかしながらコオロギの品質を保証するため、エサとして活用するためには研究開発が必要となります。食品ロスから動物性タンパク質であるコオロギを生産する「持続可能なフードサイクルの構築を目指す」といった、当社ビジネスに価値があると考えていただける企業様と共に、取り組んでいければと考えております。

―― 製菓メーカーとの取り組みイメージとしてどのようなことが考えられますか。
渡邉 例えば製菓メーカー様からチョコレート製品等の食品残渣をご提供いただき、共同研究としてエサを開発します。このエサで生育したコオロギを原料としたチョコレート製品を、商品化していただくこと等が考えられます。
 実現すれば、製菓メーカー様にとって、ESG経営やSDGsの取り組みとして強い訴求力があるとともに、当社にとってもコオロギを社会に浸透させるといった点で、大変意義があるものとなります。

―― 御社は徳島大学でのコオロギ研究を基礎に、世界的にもトップレベルの知見やノウハウを保有していますが、技術開発などの取り組みについてお教えください。
渡邉 世界的に見てもコオロギ飼育にはヒューマンコストが占める割合が高く、高コストな体質の産業となっています。一般的な食材として展開するためには、コストダウンが必要不可欠となるため、現在、自動飼育マシンの実用化など、生産システムの開発を進めています。
 また、牛・豚・鶏などの畜産物と同様に、より食用に適するよう、食味の改善や巨大化、生育速度等に関する品種改良を進めていく必要もあります。
 通常、品種改良は長い年月をかけて行いますが、当社ではゲノム編集技術を用いて品種改良を加速させます。既に徳島大学において「狙って目的形質の系統を作製するゲノム編集技術」が実用化レベルであり、同技術を活用して高度な品種改良を行い、迫りつつある「タンパク質危機」へと対応していきます。

―― 食用コオロギ市場拡大に向けた重点施策をお聞かせください。
渡邉 まずは消費者の方々に喫食機会を提案し、経験してもらうことが第一だと考えています。当社が実施したアンケート結果を分析すると、一度喫食された後にネガティブな印象を持たれる方はとても少ないことが分かりました。
 喫食経験を増やしていただくため、6月に発売した自社ブランド「C.TRIA」の小売店向け2商品に続き、今後も別チャネルで新商品を発売する予定です。販売先の業態や価格帯に合わせた商品により販路を拡大し、全国47都道府県の消費者の方々に、まずは一度手にとってもらうことを目指しております。
 食用コオロギを日本の社会に浸透・定着させ、「コオロギを食べなくてはならない」というネガティブな思考ではなく、当たり前の選択肢となる未来に向け、取り組みを進めてまいります。

「グリラスパウダー」
飼育施設の様子
廃校を利用した美馬ファーム

㈱グリラス ホームページ

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