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【2022新春トップインタビュー】井村屋グループ㈱ 代表取締役会長(CEO) 浅田剛夫 氏2022.01.26(水)

「新常態時代にイノベーションを」 創業125年を迎え“継栄”推進も強化

―― 貴社グループでは、多様な業種・業態を展開しておられますが、2021年は井村屋㈱が三重県多気郡の商業リゾート施設「VISON」に出店するなど、新規事業にも取り組まれました。
浅田 日本酒事業に参入し、昨年開業した「VISON」に酒蔵を併設した直営店舗「福和蔵」を出店しました。この酒蔵で製造する日本酒「福和蔵」のもろみを使った酒饅頭などの和菓子を販売する「菓子舗井村屋」も同施設内にオープンし、早くもご好評いただいております。井村屋㈱では、昨年、冷凍和菓子を本格展開しましたが、この店舗で販売している酒饅頭も、ゆくゆくは冷凍化し、全国流通での販売を視野に入れています。全国どこでも買うことのできる酒饅頭のブランド商品というのは、なかなかありませんよね。酒蔵と本社工場は車で30分程の距離ですし、立地と連動性を活かして早々に発売できるよう、現在研究を重ねているところです。


―― 貴社の冷凍技術の進化により、国内はもとより、輸出製品の展開も促進されているようですね。
浅田 当社は肉まん・あんまんで冷凍、包餡の技術を古くから兼ね備えており、それを冷凍和菓子にも応用したわけですが、こういった技術の転換は元来、当社の得意とするところなのです。現在、米国では、当社米国拠点で製造・販売するもちアイスクリームや、日本からの輸入品「あずきバー」「やわもちアイス」を展開していますが、2021年は米国コストコへ、国内本社工場で製造したカステラの冷凍輸送をスタートしました。冷凍によって海外での和菓子市場が拡大する可能性が広がりますし、また、国内においても、コロナ禍がもたらした生活スタイルの変化により冷凍食品売場が増え、冷食専門スーパーなども出現してきているような状況です。冷凍和菓子の良さは、何と言っても添加物は最小限とし、さらに冷凍耐性が優れていながら解凍もしやすいという点にあります。そして、保存が可能で食べたいときに適量を食べることができる、社会生活の変容に対応していける商品であると考えます。


―― 新規取り組みでは、ロングライフの豆腐製品も発売されました。
浅田 小豆から大豆まで、まめまめしく働いております(笑)。豆腐は大体、購入したその日に使うものですが、先ほども申し上げたようにライフスタイルが変わってきている中で、ロングライフはひとつのポイントとなります。さらに、栄養価が高い素材という点では、小豆も大豆も同様です。コロナにより、日常的に健康というものをここまで意識した時代はかつてなく、「健幸企業」を掲げる当社が持つ素材によって、健康に寄与できる製品がもっと必要であると思っておりました。今後はさらなる技術革新によって、豆腐製品も強化し、現在展開している香港・台湾に加えて、消費層の多い米国への輸出も目指します。


“Kの字型経営”でサステナビリティ実現


―― 2022年3月期上期の実績についてお聞かせいただけますか。
浅田 当社の21年度上期における実績は、前年同期比では好調に推移しましたが、20年、21年と周辺環境が変わりすぎているともいえる中で、会社の成長性や現在の有り様を正確に表すものが前年比で果たして良いのだろうかという視点が必要です。それでは19年度、あるいは18、17年度比ではどうかというと、当社は18年度が過去最高の売上高を達成した年次であることから、18年度との比較では現状、遅れをとっています。
 振り返れば、17年度が当社のキーとなる年次でして、創業120年・設立70年という節目で東証一部上場を果たした年でもあり、ここに集約性を図って会社のステップアップを試みた年でした。その成果が17年、18年度の業績に表れています。目指すべきはやはり18年度を超えることではありますが、今期の実績に一喜一憂せず、今は環境変化に対応できているのかどうかという点での物差しを持つべきとも思っております。
 現在、「あずきバー」を筆頭とした冷菓で上期を引っ張り、下期は肉まん・あんまんが4番バッターとして君臨、そして和菓子や羊羹、食品群というラインアップでフルシーズンを埋めています。夏と冬でだいぶ様相が変わるスタイルですが、脇役製品にも同じく注力し、売場の変化にも敏感に対応しながら下期も取り組んでいます。


―― 2021年度は、3カ年の中期経営計画「Be Resilient 2023 〜新しい時代をしなやかに⽣きる〜」もスタートしました。
浅田 現在のところは予定通り、順調に描いた線上を走っています。中計では、無論、18年度実績を上回る目標に向かっていますが、それには、従前の線上をトレースするだけでなく、新常態となる時代にイノベーションをどれだけ起こせるかにかかっていると思います。3カ年計画の後半では、このイノベーションの効果を出す様々な試みを行って結果を出し、変化していかなければなりません。


―― 目標達成には、具体的にどのようなことが求められますか。
浅田 若返りです。といっても、年齢だけのことではなく、思考、センス、感覚の若返りですね。海外への挑戦や新しい技術への挑戦もそうですが、とにかくチャレンジングな姿勢で、新しい感覚を養う必要性を感じています。当社グループのフィロソフィとして「積極・誠実・進取」がありますが、「積極・誠実」はベーシックな企業人としての考え方。これらに加え、新時代に向かっていく中では、自ら進み取る「進取」が大事であると、社内でも話しています。


―― それでは最後に、ニューノーマルな時代における貴社の経営戦略をお聞かせいただけますか。
浅田 2022年に迎える創業125年・設立75年に向け、変化の時代にこそ、次にどう繋げていくかということを意識したサステナビリティ経営、当社でいう“継栄”をしていかなければなりません。当社では、コロナ禍で業績が拡大する企業と落ち込む企業の二極化を表す「Kの字」から発想した、「Kの字型経営」を打ち出しており、社内にもだいぶ浸透してきました。それは、「K」の字の右上に伸びる線が「事業を押し上げるトップライン」、右下に伸びる線が「コストイノベーション」を示し、製品開発やマーケティング、はたまたサプライチェーンマネジメントやDXなど、軸となる基盤を強化することで“継栄”を実現します。そして昨年は、米国、中国に続きマレーシアにも進出を果たしましたので、この人材の厚みが多様性を生み、グローバルな社会における企業としてのサステナビリティある企業経営にも繋がっていくものと考えております。

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