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【2024年 新春トップインタビュー】井村屋㈱ 代表取締役社長 岩本 康 氏2024.01.25(木)フードニュース

※本企画は「フードニュース2024年新年特集号」にも掲載しています。

24年3月期・上半期も売上増キープ
顧客志向で伝統食の付加価値磨く

―― まずは井村屋グループ㈱の2023年3月期および、2024年3月期・上半期の実績を教えてください。
岩本 2023年3月期の売上高は446億8500万円(対前年同期比106.0%)、営業利益は19億9200万円(同116.9%)で過去最高益となりました。「肉まん・あんまん」などの点心・デリカテゴリーの売上伸長が大きく、アイスクリームや冷凍和菓子も好調でした。冷凍和菓子の売上高は前年比116.1%で、規模はまだ小さいですが、鮮度へのこだわりや味わいを評価いただいたほか、積極的な営業展開も奏功し、順調に推移しております。 
 菓子カテゴリーは同125.4%で、中でも2010年発売の「えいようかん」シリーズは取扱い店舗数も増えてまいりまして、ECサイトも含めて売上の一角を担っています。カステラやどらやきは、2022年後半の鳥インフルエンザによる卵不足もあって鈍化しました。
 2024年3月期・上半期については、売上高は前年同期比106.9%で好調を維持しており、営業利益は原材料価格や物流費高騰を吸収するには至らず、同96.6%でした。


―― 上半期売上の好調要因についてお聞かせください。
岩本 上半期のメイン商材であるアイスクリームが業績を大きく牽引しました。2023年3月に「あずきバー」発売50周年を記念し実施したリニューアルでは、「BOXあずきバー」の希望小売価格を税別350円から380円に改定しましたが、原材料のコーンスターチをあずきパウダーへ変更してあずき本来の風味を追求したことや、記録的猛暑の影響もあって売上、販売量ともにも増加しました。


―― 井村屋㈱では、時代に先駆けた新しいタイプの和菓子を次々に開発されていますが、目指す和菓子の未来像をお聞かせください。
岩本 奇をてらったり、新潮流を生み出したりするような大げさなことはしておりませんが、和菓子の新しい食べ方や喫食シーンの提案については、先駆けて実施してまいりました。例えば創業以来の祖業であるようかんは、伝統を重んじつつも、形態は昔ながらの棹タイプからミニようかんへ、さらに片手で食べられるものへと時代に合わせて進化させております。先ほどの「えいようかん」はその好例で、ようかんの保存期間の長さに着目してフィルムを工夫することで、賞味期間を5年6カ月まで延ばし、防災用備蓄品としてのご利用が年々増加しております。2023年は関東大震災から100年の節目で、防災意識の高まりなどもあって、多くの関心を寄せていただきました。
 そのほか、押すだけで食べられる“ギュッと押すだけパッケージ”を採用した 「片手で食べられる小さなようかん」や「もっちりぷるんわらびもち」は新感覚のデザートとして若い女性からも好評で、新たな顧客層を掘り起こすことができました。ようかんや、わらびもちのような伝統的な商品であっても、切り口を変えたり、異なる角度から光を当てたりすることで、新たな価値や需要を見出すことができると実感いたしました。


―― 「4コ入 チョコクリーム大福」や「4コ入 大福」などに代表される冷凍和菓子のカテゴリー自体にも、新たな可能性を感じます。
岩本 和菓子の作り立てのおいしさを、好きな時に好きな分だけ味わっていただきたいとの想いから、「包みたてのおいしさ そのままフローズン」というコンセプトで開発いたしました。街の和菓子屋が減少する時代に、どのような形態でご提供すれば一番おいしく召し上がっていただけるかを考え、商品化する顧客志向の取り組みも、流通菓子メーカーの務めであると考えます。


―― 冷凍食品の主力である「肉まん・ あんまん」と比べて、冷凍和菓子ならでは特徴はありますか。
岩本 冷凍和菓子は当社の強みであるフローズン技術や物流体制などを活かして製造販売しております。肉類は急速解凍した場合、ドリップと呼ばれる水分が出ることがありますが、和菓子は見た目もきれいに解凍することが可能で、作り立ての味を再現することから、非常に可能性のある分野です。
 しかし、冷凍食品としては参入したばかりの商品ですので、今後はさらに認知を高めていくことも課題の一つです。冷凍食品は電子レンジで解凍して召し上がるイメージが強いですが、当社の冷凍和菓子を最もおいしくいただけるのは自然解凍であると個人的には思っておりますので、そうした食べ方の提案も強化していく必要があります。2024年3月には新たな可能性を示す商品も発売予定でございますので、ご期待いただければと思います。


―― 貴社では2023年3月に井村屋グループの成長戦略の一環として、新工場「あのつFACTORY」を稼働開始しましたが、その機能や現況をお聞かせください。
岩本 当工場は、「SOY事業」と「焼菓子事業」の商品製造を柱として、「スイーツ事業」ではアンナミラーズブランド等の商品供給基地、「ギフト・EC事業」では包装の集約化によるコストダウンを図るなど多機能を有しております。「SOY事業」については、賞味期間180日の長期保存が可能な豆腐「4個入り 美し豆腐LONG SHELF LIFE 180」を製造し、国内の人気外食チェーンなどで採用いただいており、今後は海外輸出についても取り組んでまいります。
 「焼菓子事業」では、米国コストコで販売されているカステラを主に製造しており、鶏卵と砂糖と小麦粉だけを使用した健康食品としての魅力もあり、現地で人気となっております。
 三重県津市にある本工場は、四日市港から程近いため、安定輸送とコスト削減が可能なほか、大型蓄電池を併設した太陽光発電設備を設置しており、休業日などに発生する余剰発電分を蓄電池に充電し、夜間帯に放電することで、工場の電力使用量の60%を賄うなど、省エネ・CO2削減にも寄与しています。
 SDGs推進の取り組みとしては、豆腐製造時の副産物であるおからのアップサイクル商品を業務用では「井村屋 雪花菜冷凍おから」として、地元SMでは加工していただいた「うの花」として販売しております。そのほか、カステラの切れ端を「切り落としカステラ」として、近隣の仮設アウトレットで販売するなど、食品ロス削減も進めております。


―― 最後に貴社の2024年の成長戦略を教えてください。
岩本 原材料費高騰やエネルギーコスト上昇により、製造原価の高止まりが続くことが予想されます。度重なる価格改定による消費者離れも懸念されますが、“価値と価格の整合性”が重要で、商品のリニューアルを含めた価値の向上に伴う適正価格を維持することで、継続的なご愛顧を賜ることができると考えております。
 また、「肉まん・あんまん」と「水ようかん」が発売60周年を迎える2024年は、新・中期3カ年計画の初年度でもありますので、付加価値を高め、オリジナリティを追求していくことで、それぞれの商品の特色にさらに磨きをかけてまいります。
 企業の経営ビジョンとしましては、①あずきや大豆などの厳選素材を通して健康をサポートする 「食と健康のお役立ち企業」、②日本の和菓子や和食を海外に発信していく「グローバル企業」、③カーボンニュートラルや食品廃棄ゼロエミッションを進める「サステナブル企業」で、この3つの取り組みを着実に実行することで、引き続き、お客様からご評価いただける企業を目指し邁進していく所存です。

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