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【生産現場イノベーション】阿部幸製菓×春日井製菓2023.09.25(月)フードニュース

※本企画は「フードニュース9月号」にも掲載しています。

垣根を超えた、工場の相互訪問第1弾
ポジティブ企業同士の新しい価値創造へ

 弊誌4月号で「生産現場イノベーション」として、春日井製菓が実践する「人が繋がり、成長する保全活動」を紹介したところ、各方面から大きな反響をいただいた。そこで生産現場を起点としたイノベーションが菓子業界全体にも広がっていくことを願い、第2回の企画として「生産現場の同業他社との交流」をテーマに、社内コミュニケーションの強化と社員の自発的活動に注力し、成果を上げている阿部幸製菓と春日井製菓の「相互訪問」企画を立案した。
 まずは春日井製菓の社員15名が阿部幸製菓を訪問し、工場見学、両社の取り組み発表・意見交換、懇親会を行った。学び、発見、吸収の化学変化をレポートする。

 8月31日、気温が39℃まで上昇した新潟県小千谷駅に春日井製菓(本社名古屋 春日井大介社長)の社員達が降り立った。生産、商品開発、広報から、総務、経理まで、自薦・他薦で選ばれた総勢15名の大所帯は、タクシーに分乗して阿部幸製菓(本社新潟 阿部俊幸社長)の本社・工場へ。阿部幸製菓・阿部専務、大村常務、製造部、AK.R&Dセンター、営業部など11名の参加者を中心とする同社社員の歓迎を受けた後、さっそく同業他社間の交流が始まった。
 当日は①阿部幸製菓・製造現場の取り組みプレゼン ②工場見学 ③スナックタイム~お菓子を食べながら、両社の取り組みプレゼンとおしゃべり、意見交換 ④懇親会 の流れで進行した。

(写真上段左より)生産現場の取り組みをプレゼンし、工場を案内してくれた、製造部・安部さん、中島さん、谷江さん。(写真下段左より)第一工場・鏡餅梱包工程の見学。「チョコ案活動」の説明を受ける。「チョコ案活動」の提案ノート。気軽に書けるので、提案件数も増えていく。

阿部幸製菓・生産現場の取り組み

 業務用を中心に、米を原料とした菓子、食品の製造を手掛ける阿部幸製菓・本社工場。高品質の製品づくり、ロスの減少、コミュニケーションを重視した改善活動に取り組んでおり、その進捗状況等について、製造部の安部さん、中島さん、谷江さんが発表した。「土川beika’s」「FBI柱合会議」「チョコ案活動」など、おもしろいネーミングにすることで、一般的な品質ミーティングや改善活動が、自発的に参加しやすく、意見を言いやすい活動に変わっていった経緯が説明された。
 ネーミングの由来(F(フライ)、B(米菓)、I(インターナショナル)、柱合会議(阿部幸製菓の柱という自覚を持ち、国際的なフライ品製造に取り組む))などの質疑応答の後、3つのグループに分かれて工場見学。「チョコ案活動」の提案ノートに書かれた言葉や、包装工程での最新設備に感激しながら、初めて足を踏み入れる他社の工場に、興味が尽きない様子であった。

 そして工場内では春日井製菓のメンバーが「自社との違い」「これはまねしたい」として胸に刻んだ出来事が。それは工場内のスタッフ全員が、たとえ作業中であっても、見知らぬ訪問者に向け、「いらっしゃいませ」「こんにちは」と温かい声がけをしてくれたことだ。冒頭の挨拶で、阿部幸製菓・阿部専務は交流の意義として、「外部とのコミュニケーションの重要性」と「他社の取り組みをまねて学ぶ」ことを挙げていたが、「まねて学ぶ」リアルな事例がさっそく実現することとなった。
 工場見学の最後には、阿部幸製菓が「部署横断型取り組み」と位置づける、工場直売所前の「ドッグラン」を見学。以前は雑草だらけの空き地が営業部・中村さんを仕掛け人とする有志の手により、地域の憩いの場となるドッグランへと生まれ変わるまでの道のりの説明から、これまでとは違うやり方で、会社と地域を盛り上げようとする熱量が伝わってきた。

(写真左より)取り組みを熱く語る営業部・中村さん。工場直売所前のドッグラン。

阿部幸製菓・社内円滑化の取り組み

 工場、ドッグランの見学を終え、休憩室での「スナックタイム」へ。「つぶグミ」「グリーン豆」(春日井製菓)、「かきたね」「パスタデスナック」(阿部幸製菓)といった両社のお菓子と、ドリンクを楽しみながら、両社社員が「相席」をしながらプレゼンを聞き、意見交換を行った。

(写真上より)休憩室での広野さんによるプレゼン風景。休憩室に向かう階段踊り場に設置された「あべたく」。「あべたく」の説明ボード。


 阿部幸製菓のプレゼンテーマは①「『あべたく』活動」(AK.R&Dセンター・広野さん)、②「『良いね!活動』『お知らせ掲示板』」(品質管理部・広報室・白井さん)。
 ①では、AK.R&Dセンターが主導する、縦割りの組織に横串を刺すための新組織「阿部幸製菓2.0」の活動を報告。「製造」「管理」「営業」といった部門間が「仲が悪いわけではないが、ムダないざこざが起こることもある」という課題を解決すべく、共通プラットフォームとなるアナログの掲示板「あべたく」を本社内に設置。「あべたく」とは「みんなで自由にペンを持ち、『文字』を通じてつながる所」として、まずは誰もが書きやすい「しりとり」からスタートした。
 その後、営業と製造で感謝の気持ちを伝え合う「ありがとう作戦」や、製造現場にアメをプレゼントし、包み紙でメッセージを交換する「疲れたときのアメちゃん作戦」などを展開。「この活動が売上増につながる段階ではないが、アナログが奏功して活発に運用されており、社内の風通しがよくなったことを実感している」(広野さん)という。

(写真上段段左より)「良いね!活動」評価シート。「超凄いね!(Sランク)」を獲得しているのは谷江さんのグループ。休憩室の「お知らせ掲示板」にはグループ会社のTV情報も。(写真下段)ドリンク片手にリラックスしながら、学び満載のプレゼンを行う白井さん。


 ②の「良いね!活動」は品質管理部が行う活動で、品質管理的な視点での「問題点」をあえて「見ない、気づかない力」を発揮して、「良い点」だけを書き出していく。普段当たり前のようにやっていることが、「良いね!」と評価されることでポジティブな気づきに繋がるだけでなく、「良いね!」を職場グループごとにまとめて評価し、モチベーションアップに繋げている。「ただほめるのではなく、いいところを見つけて感謝する、という姿勢が大事になると思う」(白井さん)。
 「お知らせ掲示板」は「社内で起こっていることは、グループ企業含めて、みんなが知っておく」ことを目的に、社員が最も多く立ち寄る休憩室に設置。「近くの川にスッポンが出た」など、朝礼では言わなくてもいいことなども掲示し、会社での出来事を社員全員が知ることでの、働く意欲の向上を目指している。

春日井製菓の取り組み

(写真上)保全活動の取り組みを高熱量で伝える鹿田さん。(写真下段左より)保全活動を現場で活躍し、自らの成長にも繋げている、後藤さん、徳永さん、中島さん、前田さん。ロングセラーゆえのリブランドの難しさ、やりがいを語る北さん、竹嶋さん。

 春日井製菓のプレゼンテーマは①「機械も意欲もメンテするKasugaiオリジナル『保全の日』」(生産保全統括部・鹿田さん、生産本部・徳永さん、前田さん、中島さん、後藤さん)、②「商品企画開発あの手この手」(マーケティング部・北さん、商品開発部・竹嶋さん)。
 ①は生産現場の全員が参加して行う保全活動で、「Kasugaiオリジナル」の点として◆人が繋がり、人材育成を行う ◆若手、女性がリーダー、サブとなった下から上への改善 ◆他部署の保全活動に参加する横断活動により、全社的なコミュニケーションの活性化 ◆「合格証」「表彰状」の発行など称賛の場をつくる、などがある。この保全活動により、ロスを起こさない仕組みの構築と、生産現場の取り組みから会社の成長へと繋げることを目指している。
 プレゼンでは同プロジェクトのリーダー鹿田さんの熱い言葉に加え、現場のメンバーからもホンネの数々が聞かれた。
 ②では、今年50周年を迎える「グリーン豆」のリニューアル、プロモーション施策について発表。えんどう豆、そら豆商品群を「グリーン豆」に統一するリブランドを行い、ブランドサイトも新設。パッケージ変更とともに、えんどう豆のおいしさを引き出す“ロレーヌ産岩塩”を使用することで、製品内容の見直しを図った。プロモーションとしては人気ボーカルグループ「GReeeeN」とのコラボキャンペーンを実施したほか、春日井製菓ならではの取り組みとして、豆の理解向上と意識合わせのための社内勉強会を開催。マーケティング、商品開発、営業間の意思疎通を図り、豆の魅力を社外へ発信する際も役立ったという。

スナックタイムで議論白熱

「スナックタイム」でのおしゃべり。名刺交換。

 これら両社からのプレゼンが行われた「スナックタイム」では、プレゼンごとに質問(突っ込み)→答え→意見交換が活発に行われた。そのテーマは「新しい取り組みをどう始めるか」「社内のコミュニケーションをどうとるか」に、自然に集約されていった。
 阿部幸製菓の「あべたく」活動では、「通常なら社内コミュニケーションは総務部の案件かもしれないが、社内を俯瞰で見ることのできるAK.R&Dセンターこそ適任と思い、会社に提案した。従来の発想を転換することで新しい活動が始まる」(広野さん)という説明があった。製造現場スタッフはデジタル環境にないことに着目し、アナログの掲示板を使って(春日井製菓の保全活動でもホワイトボードの「活動板」を活用)、しりとりという「誰もが参加しやすい」形を取ることの有効性も確認された。
 春日井製菓の保全活動においては、最初は否定的な意見が多い中、鹿田さんのポジティブな声がけや、若手や女性の登用により、下から上への機運が生まれ、工具の使い方など新たな学びも加わって、「保全活動は楽しい、成長したい」と思うスタッフが増えるまでの経緯が語られた。

 こうした新しい取り組みや社内コミュニケーションの活性化は、会社の現状に対する危機感・停滞感に端を発していることが両社に共通しており、その認識なしにプレゼンされた取り組みの成果は成し得なかったともいえよう。
 また、両社の共通点としては、「ポジティブ」「行動力がある」「温かい」「社長(専務)がノーとあまり言わない」が挙げられ、共通点が多いからこそ受ける刺激も大きかったようだ。


懇親会での感想まとめ

 交流の最後にはお酒と食事をともにしながらの懇親会が開かれた。懇親会ではまず春日井製菓の「『みらい誰もが活躍クラブ』(MDK)が目指すこと」のプレゼンが行われた(経理課・押谷さん)。MDKとは社員の働く意欲を高めるために、夢を叶え、活躍する場を広げる活動で、現在、「女性特有の健康問題」に取り組み、言いづらいことにも向き合って、女性が働きやすい職場を目指す「Teamハピネス」など3つのプロジェクトが進行している。阿部幸製菓にも女性活躍を推進する「ラシーク」という組織があり、そのメンバーからの質問と回答を通じ、女性活躍の課題解決に向けた両社の思いが共有された。
 続いて、春日井製菓「おかしな実験室」の取り組みについて、同室・室長の原さんがプレゼンを行った。「おかしな実験室」は、「同じことをやっていたら、違う結果にはならない」という危機感のもと、社内公募制で集まったメンバーと原さんの6人でスタート。①ネタ作り(コンテンツ制作) ②ファン作り(広報・広聴・体験提供) ③キッカケ作り(新規事業開拓)の3本柱で活動している。ファン作りの一環として「スナックかすがい」を実施し(これまで28回開催)、参加前後の同社に対するイメージ比較で「人に勧めたい」が6割近くに上昇したほか、「思い出を語る人が増えた」「コラボの話がしやすくなった」「社員と仲良くなった」などの成果が着実に上っている。

(写真左より)懇親会でMDKのプレゼンをする押谷さんは、ボードゲームを作るチームを主宰。「おかしな実験室」では原さんの推進力とともに、メンバーそれぞれが個性を発揮。

 最後のプレゼンが終わり、お酒も入って楽しく、ポジティブな空気がさらに会場に充満する中、参加者の感想の発表が行なわれた。


●阿部幸製菓の感想
*ともに自社の長所、いいところを力強くアピールできていたと思います。超ポジティブな会社同士が、ポジティブな時間を共有できて感動。(阿部専務)
*私は負けず嫌いで、春日井製菓さんの話を聞いて、負けられないと思いました。次回は進化した改善の取り組みをご紹介したいと思います。(製造部・安部さん)
*保全活動やMDKの活動の中で、社員を尊重し、モチベーションを高めることが仕事外であっても重要だなと思いました。また、工具のことを知らない女性が、知ることから始めて興味を持つ→ステップアップに繋がる、という取り組みなど自分たちの仕事にも生かしていきたい。(AK.R&Dセンター・森山さん)
*今日一日で春日井製菓さんの温かさを感じました。質疑応答の中で、社員同士の突っ込みでみなさんのいいところがどんどん引き出されていく。また、役職のない若い方でも、人前で堂々と意見が言える。それはいい環境だから言いたいことが言える、ということを聞いて、私の部下からそんなことを言われたらもう泣いちゃうなってくらいの言葉でした。(製造部・中島さん)


●春日井製菓の感想
*他の工場を初めて見て、設備や働き方も全然違うことに刺激を受けました。帰って自分の仕事に活かせることも多く、月曜日からはしゃべったことがない人にもあいさつをします!(生産本部・前田さん)
*自分の仕事として、みなさんが生き生きと働ける会社になるにはどうしたらいいかに取り組む中、「あべたく」の掲示板や「良いね!活動」など、すてきなだなあと思って何度も泣きそうになりました。(システム課・菊地さん)
*みなさんが会社のことを愛し、気持ちよく働くためにはどうしたらいいのかを模索する施策に、心が通っているというか、感謝の気持がいろんなところにすごく感じて、素晴らしいなあ、と思いました。(生産管理/みらい誰でも活躍クラブ・鈴木さん)
*この機会をきっかけに単なる商品のコラボではなく、それを超えていく新しい価値を一緒に作れるようになったらいいと思っています。まさに今日がスタートとして、生産、商品開発、人事、マーケティングなどあらゆる分野で、ともに鎹(かすが)っていきましょう。(おかしな実験室・原さん)
 最後に春日井製菓・生産本部長・冨山さんに、締めの挨拶をしていただいた。
「みなさんが迎え入れてくれる気持ちがすごく伝わってきて、阿部幸製菓さんの温かさを感じました。それ以外のところでも自発的に行動し、自分たちのやりたいアイデアをそれぞれの行動力で実行しているところにパワーを感じました。私達もぜひ参考にしたいと思っています。また、あえて見ない、気づかないのは難しいことですが、良いところだけを発掘して膨らますのはすごくすてきな活動ですね。
 保全活動やMDK活動も紹介させていただきましたが、こちらが吸収するところが多くて、月曜日からまた新たな気持で取り組んでいきたいと思います」
 こうして同業他社間の相互訪問という初の試みは、参加した両社社員の胸に、新たな気づき、刺激、自らへのフィードバックを刻んで、第1回目を終えた。次回は阿部幸製菓が春日井製菓の工場を訪問することになる。そのときは、今回得たものが、両社社員の仕事にどのように反映され、新たなステップを踏み出しているかをレポートする。
 企業の枠を超えた「横断活動」は、大きな可能性を秘めて進んでいく。

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