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【米菓メーカー・トップインタビュー】㈱栗山米菓  代表取締役社長 栗山敏昭氏2022.04.25(月)フードニュース

※本企画は「フードニュース4月号」でも掲載しています。

変化予測と柔軟な対応で難局乗り切る

―― 「ばかうけ」や「星たべよ」「瀬戸しお」など、主力ブランドを含む今期の実績はいかがでしたか。
栗山 2022年3月期の実績は主力ブランドがコロナ禍の影響を受け、春先から厳しい状況が続いたことに加え、キャラクター系の商品において、一昨年の「鬼滅の刃」コラボ商品ほどの大きな売上を作れなかったものの、全体では微増収で着地することができそうです。ただ、利益面では減益の見込みです。

若年層獲得、コラボ推進から、SNS活用まで先手策実る

―― 米菓の場合、ユーザー層の高齢化に対して、若年層をどう取り込んでいくのかが課題になっていると思います。その点について、貴社の取り組みはいかがでしょうか。
栗山 当社では、長年「アンパンマンのベビーせんべい」や「同おこめボール」「同おやさいせんべい」を販売するなかで、乳幼児とその親御さんというユーザー層を獲得できていると認識しています。特に、親御さんからは安心・安全という評価をいただいており、その影響を受けたお子さんが、当社のスターター層として育っているのではないでしょうか。
 また「星たべよ」はソフト系のサラダせんべいで、幼稚園などで配られる機会も多く、同様に子どものころから愛着のある商品として、売上増に繋がっています。
 加えて今年3月に発売した「光黒豆もち」のように、ベーシック路線の商品でも、ユーザー層の拡大に取り組んでいきます。


―― コラボ商品のヒットもユーザー層拡大に貢献していますね。
栗山 社員のアンテナ感度を高め、数あるコンテンツから新しいキャラクターを探し、発掘して商品化しています。他社に先駆けて実現したコラボ商品も多く、これまでの実績から当社に対する信頼感が醸成されていることを実感しています。これからもコラボの実績を活用し、新しい商品の開発に尽力していく所存です。


―― 昨年3月に健康面を意識して発売した「おいしい玄米せんべい」の状況はいかがでしたか。
栗山 現在のところ売上動向としては、まだ全国区を目指している段階ですが、市場には円滑に導入でき、堅調に推移しています。
 健康志向の商品に関しては注目度が高まっていますが、やはりお菓子は嗜好品。機能面を追求しすぎて、味や食感に影響が出ないよう、機能面と嗜好性の両立に取り組んでいきます。


―― デジタルマーケティングの現状や、今後のプロモーションについてお聞かせください。
栗山 YouTubeとのタイアップ、SNSでのコラボ、LINEの公式アカウント開設など、多方面で取り組んでいます。Twitter(フォロワー約14万人)の役割は情報収集を中心に位置づけ、キャンペーンなどに対する書き込みから、ユーザーの意見、要望の把握に活用しています。
 今の時代、メーカー主体の情報発信も大切ですが、話題作りという点では、ユーザーからの自然発生的な流れに期待しています。


米菓市場のシュリンク防ぐ対応策

―― with/afterコロナを見据えた今年の施策としては、どのようなことを予定されていますか。
栗山 当社の場合は、”米菓フロンティアカンパニー”として、他社が手をつけない部分を掘り起こし、個性的な商品を開発していくことが企業活動の重要テーマです。このような状況下でも、開発の路線は力強く継続していく所存です。
 しかし、2月に起きた同業メーカー様のアクシデントによって、米菓市場の先行きが見えづらくなっていることを受け、現在は具体的な施策とその実施については、未定としております。市場への供給不足が続いており、各社、工場の稼働時間も人的パワーも最高レベルの増産体制で対応している最中ですが、それでも残念ながら米菓市場はシュリンク気味の傾向も見えます。
 特に、GW以降は予断を許さない状況が訪れる可能性もあり、今年の春夏の重点商品である「光黒豆もち」と「玄米柿の種」などの新製品や、既存商品の販売戦略は練り直しが必要になっています。生産目標は立てられますが、売上目標は立てられないのが現状です。
 増産体制についても、すぐに設備を増やすことはできませんから、現在ある設備をフル活用し、人を増やし、稼働時間を増やすしかない。GW時期の需要増を見込んだ増産にはすでに着手していますが、それ以上の、1企業が生産していた量を穴埋めすることは、米菓業界全体をもってしても担い切れていないのが現実です。
 加えて、ロシアのウクライナ侵攻問題の影響もあり、油は倍以上、そのほかにも包装フィルムやダンボール、運送料など、ありとあらゆるものの価格が上昇しています。こうしたコストアップが今後も継続することも、先が読めない要因となっています。
 弊社としては、できるだけ対応できるよう、さまざまな状況を想定して、可能な限り選択肢を増やし、GW以降に想定される変化にも柔軟に対応していく準備を整えています。ただ、これまで経験したことのない局面ですので、慎重に対処していく所存です。


―― 設備投資の進捗はいかがでしょうか。
栗山 数年後には増産体制のための設備投資をしなければいけないと考えていますが、取り組むタイミングの判断がなかなか難しい。現在も当社では、全体の4分の1が省力化工場になっており、今後も注力していきたいところですが、機械設備の値上がり分とのバランスを考慮しながら、適切な判断を下していきたいと考えております。
 また、サイバー攻撃への対策も急務となっており、設備面での施策には重点的に取り組んでまいります。


―― 価格の値上げに関してはどのように対応されますか。
栗山 今後の課題として、きちんと値上げができるかどうかといった問題もあります。当社では米菓メーカーの理念として、社会との関わりを謳っておりますので、商品・サービスを確実に提供する中で、適正な利益を生み出し、きちんと納税すること、雇用をしっかり維持することを、着実にやっていかなければなりません。
 困難な状況がいくつも重なっていますが、幸い、100周年に向けて社員の士気は高まっております。逆境の今だからこそ社員が一丸となって、米菓市場のキャパシティを減らさず、遅からず回復へと舵を切れるよう、今回の難局を乗り切っていきたいと考えております。

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